第11回ドイツ・イノベーション・アワード「ゴットフリード・ワグネル賞2019」 受賞者発表

在日ドイツ商工会議所は、6月26日(水)に東工大蔵前会館で第11回ドイツ・イノベーション・アワード「ゴットフリード・ワグネル賞2019」授賞式を開催し、受賞研究を下記の通り発表しました。

本賞は、日本を研究開発の拠点として活動しているドイツのグローバル企業9社によるプロジェクトで、日本の若手研究者支援と科学技術振興、そして日独の産学連携ネットワーク構築を目的としています。応募対象は、材料とエネルギー、デジタル化とモビリティ、ライフサイエンスの3部門における応用志向型の研究で、応募資格は日本の大学・研究機関に所属する45歳以下の若手研究者です。今回の公募には、全国22の大学・研究機関から52件の応募がありました。

共催企業の技術専門家による予備審査の後、各分野の科学研究に精通した専門家からなる専門委員による選考を経て、選考委員長の国立研究開発法人科学技術振興機構顧問の相澤益男氏と4名の常任委員から構成される選考委員会において受賞者を決定しました。受賞者にはそれぞれ賞金200万円が授与されました。

ドイツ・イノベーション・アワード「ゴットフリード・ワグネル賞2019」受賞者

<材料とエネルギー部門> 

西原 洋知 (にしはら ひろとも) 41歳 東北大学 多元物質科学研究所 准教授
「機能性カーボン材料調製を可能とする新規鋳型法の開発」

<デジタル化とモビリティ部門>

ファム ナムハイ (ふぁむ なむはい) 40歳 東京工業大学 工学院 電気電子系 准教授
「トポロジカル絶縁体の超巨大なスピンホール効果と超低消費電力磁気抵抗メモリへの応用」

<ライフサイエンス部門>

太田 禎生 (おおた さだお) 34歳 東京大学 先端科学技術研究センター 准教授
「ゴーストサイトメトリーの開発」
チームメンバー: 堀﨑 遼一 (ほりさき りょういち) 大阪大学 大学院情報科学研究科 助教


ドイツ・イノベーション・アワード「ゴットフリード・ワグネル賞2019」受賞研究概要

<材料とエネルギー部門> 

西原 洋知 (にしはら ひろとも) 41歳
東北大学 多元物質科学研究所 准教授
「機能性カーボン材料調製を可能とする新規鋳型法の開発」

炭素(カーボン)は豊富に存在する最も重要な元素の一つで、その材料は軽量かつ強靭、導電性、耐食性などさまざまな利点を持ち、化学工業やエネルギー、輸送用機械、環境浄化、医薬などの広い分野で使われており、現代社会に欠かせない。しかし、科学的にまだ汲み尽くされておらず、炭素には多様な可能性がある。特に、カーボン材料の精密な構造制御法の開発は新しい技術の発展をもたらす重要なテーマとなっている。

カーボン材料科学者の西原洋知氏は東北大学多元物質研究所の京谷隆教授の研究室でこのテーマに取り組み、材料合成を緻密に制御して、従来よりも高度なカーボン材料や複合体の構造制御を可能とする、複数の新規鋳型法を開発した。具体的には、スポンジのように柔軟であり、なおかつ耐食性に優れるグラフェン系多孔性材料(GMS)の調製を可能とするアルミナナノ粒子を鋳型とする合成手法や、規則的な炭素骨格の中に金属原子が整然と配列した触媒の調製を可能とする有機結晶を鋳型とする合成手法を開拓した。

西原氏が開発した新規鋳型法を使えば、高性能のエネルギー貯蔵材料や、高効率ヒートポンプ開発の基になる気液相転移材料、金属単原子が埋め込まれた電極触媒など、工業的に有用な高機能材料の製造が可能となる。これらの成果は研究者だけでなく、産業界からも大いに注目されている。西原氏は、構造設計が可能なカーボン材料の新規鋳型法などに関して、複数の特許を企業と共同出願しており、新規材料の大量生産を目指した検討も進めている。

<デジタル化とモビリティ部門>

ファム ナムハイ (ふぁむ なむはい) 40歳
東京工業大学 工学院 電気電子系 准教授
「トポロジカル絶縁体の超巨大なスピンホール効果と超低消費電力磁気抵抗メモリへの応用」

電子が持つ電荷とスピンの両方を利用しようとするスピントロニクスでは、スピンの効率良い生成や注入、制御が課題である。半導体スピントロニクスが専門のファム・ナムハイ氏は物性の設計論に立ち返って研究し、トポロジカル絶縁体のBiSb の(012) 面方位を用いて、世界最高性能の純スピン注入源を開発した。これは、純スピン流で高速書き込みを実現し、電力がなくても情報が失われない不揮発メモリの次世代技術につながる成果といえる。

純スピン流源としてこれまで使われている白金やタングステンなどの重金属は、スピンホール角が低いという問題があった。ファム氏がBiSbトポロジカル絶縁体に着目し、その薄膜を評価したところ、室温でも超巨大なスピンホール角を示すBiSb(012) 面を発見した。さらに、BiSb 薄膜を使い、従来より1~2桁少ない電流密度で、MnGa垂直磁性膜の磁化反転を実証した。

BiSbをスピン軌道トルク磁気抵抗メモリへ応用すると、室温で作動して、データの書き込みに必要な電流を1桁、エネルギーを2桁低減でき、記録速度を20 倍に、記録密度を1桁向上させて、揮発性半導体メモリを置き換えることができる。ファム氏の成果はスピントロニクスの展開に刺激を与えた。電子機器の一層の省エネ化をもたらし、数兆円に上るスピントロニクスの新産業を創製できる可能性があり、経済効果は大きいと期待されている。

<ライフサイエンス部門>

太田 禎生 (おおた さだお) 34歳
東京大学 先端科学技術研究センター ロボティック生命光学分野 准教授
チームメンバー: 堀﨑 遼一 (ほりさき りょういち) 
大阪大学 大学院情報科学研究科 情報数理学専攻 助教
「ゴーストサイトメトリーの開発」

大量の細胞を短時間に光学的に分析し、選択的に分離するサイトメトリーは生命科学や医療で重要性を増しており、画像情報に基づく特定細胞のより正確な高速識別技術が待望 されている。しかし、細胞当たりの処理可能情報量と時間当たりに処理できる細胞数の両立は難しく、人の経験と認識に基づく限り、速度と精度に限界があった。

ロボティクス生命光学者の太田禎生氏らは、人を介さない画像解析に画像そのものが必要ないことに着目、「画像を見ずに形を見る」逆転の発想で、この課題に取り組んだ。単一画素検出器で測定した光圧縮画像信号を機械学習の人工知能(AI)で直接判別し、超高速で解析できる世界初の高性能セルソーターを発明した。画像生成をスキップして、人知を超えて解析するので「ゴーストサイトメトリー」と命名した。患者血液中のがん細胞など、人の目で見分けることが困難な細胞の高速検出、分離への応用を目指している。

太田氏はアカデミアや組織の枠も超えて、堀﨑遼一氏らと協力した。光・マイクロ流体・電気ハードウェアにAIを結合させた成果で、より正確で安価な血液診断などの実用化を目指して、ベンチャー企業の「シンクサイト」を共同で創業した。迫りくるデータ爆発時代に、若い研究者たちが自ら活躍できる次世代の産業や市場をつくり上げようとしている点が注目され、ヘルスケア産業や医療など広い分野に影響すると期待されている。


第11回ドイツ・イノベーション・アワード「ゴットフリード・ワグネル賞2019」概要

本賞は、在日ドイツ商工会議所、ならびに日本を研究開発の拠点として活動しているドイツ企業9社の共同プロジェクトとして、日本の若手研究者支援と日独の科学技術交流および国際的産学連携ネットワークの構築を目指して運営されています。受賞者には賞金200万円が授与されます。日本に縁の深いドイツ人科学者ゴットフリード・ワグネル(1831-1892)にちなんで名付けられました。

応募資格:日本の大学・研究機関に所属する45歳以下の若手研究者(応募締切日時点)
応募対象:下記の3分野のいずれかの分野における応用志向型の研究で、現在進行中の研究、または過去2年以内に完了した研究成果。
1. 材料とエネルギー 2. デジタル化とモビリティ 3. ライフサイエンス 
賞金:200万円 (原則として授賞は各分野1件、計3件)
審査方法:

本賞の共催企業の技術専門家による予備審査の後、常任委員と専門委員から構成される選考委員会において、受賞者を決定します。
選考委員会

委員長
相澤 益男
国立研究開発法人 科学技術振興機構 顧問、東京工業大学 名誉教授・元学長

常任委員
岸 輝雄 
東京大学 名誉教授

五神 真
東京大学 総長

藤嶋 昭
東京理科大学 栄誉教授・前学長

山極 壽一
京都大学 総長 (50音順)

主催:在日ドイツ商工会議所
共催: バイエル ホールディング株式会社、ボッシュ株式会社、カールツァイス株式会社、コンチネンタル・ジャパン、ダイムラー、エボニック ジャパン株式会社、メルク株式会社、シェフラージャパン株式会社、シーメンスグループ (アルファベット順)
特別協力: ドイツ 科学・イノベーション フォーラム 東京
後援:                   ドイツ連邦共和国大使館、ドイツ連邦教育研究省、ドイツ学術交流会、ドイツ研究振興協会、フラウンホーファー研究機構、国立研究開発法人 科学技術振興機構、独立行政法人 日本学術振興会